6年目を迎えた被災地メンタルヘルス支援活動とJAMSNET東京との協働

鈴木 満
認定NPO法人心の架け橋いわて(こころがけ)
 
 東日本大震災から6年が経過しました。大規模惨禍からコミュニティが復興するには長い年月を要します。複合的な喪失体験が個々の人生に開けた空洞はあまりに大きく、一度分断された地縁・血縁・職縁は新しい町並みができてもなかなか元に戻りません。阪神・淡路大震災の場合、震災後20年が経過した現在でもメンタルヘルスの問題を抱えた住民が多数存在すると報告されており、ニューヨークで発生した多発テロ事件の被害者および遺族のメンタルヘルスケアを行っているマウントサイナイ病院では、事件後10年以上が経過しても新たな受診事例があるとのことです。
 JAMSNETでは、2011年の震災直後からニューヨークと東京の両JAMSNETが緊密に連絡を取り合い、被災地への長期的メンタルヘルス支援を日米協力して行うプロジェクトを立ち上げました。支援対象となったのは岩手県大槌町です。町から海を臨むとひょっこりひょうたん島のモデルとなった蓬莱島が見えます。大槌町は、震災前から精神医療資源が寡少であり震災により壊滅的な津波被害を受けました。震災前からのメンタルヘルス需要に加えて、震災に伴う新たな需要が生じたものの、それらに対応できる専門家が全く足りませんでした。今も多くの住民が行方不明であり、若年人口の流出が高齢者率の上昇を助長しています。
 2011年6月から日本精神科救急学会、多文化間精神医学会、JAMSNETの有志と共に着手した週末の被災地訪問は、同年12月にはJAMSNETや米国日本人医師会の助けを得て、ニューヨークのJapan Society からの活動助成(3年間)による長期支援の道筋ができました。毎週末に3−4名のメンタルヘルス専門家が全国から交代で大槌町に参集し、被災者宅へのアウトリーチ、現地拠点での相談対応、支援者支援、啓発教育、他支援団体とのネットワーク作りなどの活動を展開しています。本活動は、精神医療過疎地への遠隔支援モデルでもあります。
 活動の中核は予防的啓発教育です。2012年7月に着手したサロン活動は、年間50回ほど実施してようやく地元に根付いてきました。落語、音楽演奏、高齢者転倒予防運動などの企画と医学講話との組み合わせによる、相談行動の促進、高齢者の居場所作り、世代間交流の場の提供などを目的にしています。2016年からは、JAMSNET東京のメンバーによる音楽療法、芸術療法などを取り入れており、JAMSNETからの活動助成も受けています。
 一方、遠隔地からの「出前型」支援は移動に要する負担が多大であり、今後の長期支援をより効率的かつ経済的に行い地域全体のケア能力を高めるには、被災地の伝統文化や行動規範を熟知した現地在住の人材を育成・支援する「地域自立型」支援との協働が必要です。こころがけでは2014年9月から岩手県内の対人援護職を対象に、メンタルヘルス領域の支援者育成研修を16回開催しました。2015年10月にはその中から12名をインターンとして採用し、現在ではサロンの半数近くをインターンが企画運営しています。今後は遠隔会議システム等のICTを使いこなすことで、岩手県在住の支援者と遠隔支援者の連携協働を推進していきます。こころがけでは、共に被災地長期支援に取り組んで下さるメンタルヘルス専門家を募集しています。ご興味を持たれた方はホームページhttps://kokorogake.org/contact/よりご一報下さい。

 こころがけは、Japan Societyの活動助成によるNPO法人としての助走期間を経て、2014年からは復興庁や岩手県などからの大型助成金を獲得し、2015年3月に岩手県で9番目となる認定NPO法人への昇格を果たすことができました。寄付者が税制優遇措置を受けることができる認定NPO法人になるには厳しい審査があり、日本の全NPO法人のうち認定NPO法人は1%程度にすぎません。皆様の篤志を被災地に届けるためのご寄付をお願いしております。詳しくは同じくホームページhttps://kokorogake.org/donation/をご覧下さい。