今週のこころがけ 2017.08.09号

お盆が近づき世間は夏休みモードかと思いきや、ジワジワ台風がまさに大槌町付近を通過中でしょうか。
被害が出ませんことをこころよりお祈り申し上げます。
 
先月、大槌町の学校で看護師の岡本さんと、医療福祉系をめざす生徒さんたちとのお話会に参加させていただきました。
大学生や専門学校生ではなく、まだスタートライン手前の高校生にどのような話をしたらよいかちょっと悩みました。同じ職業でも多様性を知ってほしくて、こころがけメンバーや、岡本さんの教え子学生、私の職場の岩手出身看護師や放射線技師さんらに動画メッセージを提供してもらったのは正解でした。実際の仕事内容、目指したきっかけやモチベーション、余暇の使い方など、一人一人の言葉がリアルな応援メッセージになり、私たちにとっても新鮮でした。驚いたのは、生徒さんたちの質問内容がしっかりしていること!「対人支援で大事にしている心構えは何ですか?」に一瞬ひるみ、「震災の影響はずっと残ると思いますか?」という質問には思わず深く考えてしまいました。震災のとき彼らは小学5年生。生活再建に忙しい大人たちを見ながら、さまざまな状況に向き合ってきたことと思います。終わってからも二人の生徒が「もっと聞きたい」とかけよってきて、一人は翌日のサロンにも顔を出してくれました。「活動続けてきてホントよかったよねぇ…」と岡本さんと感動を分かち合ったのは言うまでもありません。貴重な機会を企画してくださった学校の先生方に心から感謝申し上げます。

今月の予定

 
■8/5(土)
 AM10-12 こころがけカフェ@旧植田医院仮設診療所
 PM1-3 こころがけカフェ@旧植田医院仮設診療所
  スタッフ:赤崎美枝キャリアカウンセラー、川堀昌樹キャリアコンサルタント
 
※8/12と8/19は活動お休みいたします。
 
■8/26(土)
 AM10-12 こころがけカフェ@旧植田医院仮設診療所
 ☆ICTサロンを開催します。講師:瀧澤寛之先生      
 【AM出張サロン】AM10:30-12 健康サロン@末広町町営住宅集会室
      
 PM1-3 こころがけカフェ@旧植田医院仮設診療所
 【PM出張サロン】PM1:30-3 ぬくっこサロン@ぬくっこハウス
 スタッフ:山中浩嗣精神科医師、福島正樹臨床心理士、中田信枝看護師、川堀昌樹キャリアコンサルタント、伊藤亜希子精神保健福祉
 
※こころがけカフェは原則午前10:00-12:00および午後1:00-3:00にオープンしています。
※金曜は、医師が釜石地域こころのケアセンターのストレス相談室、他職種は社協さん等で支援者サポートに従事します。

 

こころがけのロゴのお話

 こころがけのロゴをご存知ですか?不揃いなひらがなの「こころがけ」を水色のタスキが弧を描いて囲み、タスキの下側には緩い緩い結び目があります。「こころがけ」は、心の架け橋いわてを呼びやすくした「こころかけ」がなまった愛称ですが、心身の健康にとって大事な、規則的で余裕のある生活習慣を「心がけましょう」というメッセージを盛り込んだつもりです。不揃いなひろがなは、多職種の専門家達が柔軟な気持ちで協働する姿を象徴しています。こころがけのチームは医師、心理士、看護師、精神保健福祉士だけではなく、教員、産業カウンセラー、ICT専門家等から構成されています。年齢、経験も様々です。
 岩手県人が「架け橋」という言葉から思い起こすのは新渡戸稲造先生の「我、太平洋の架け橋とならん」ですよね。青いタスキに見えるのは太平洋の海原でもあります。こころがけの設立と初期の活動を支えてくれたのは、ニューヨークの米国日本人医師会とジャパンソサエティからの海を越えた篤志と義援金です。新渡戸先生は1933年3月に三陸を襲った巨大津波後の5月に岩手を訪れ、毛筆でUnion is Powerとしたためた掛け軸を残しています。「一緒にやるべ」という意味です。当時、国際連盟の事務局次長として世界平和のために心を砕いており、そんな毎日からの思いを込めた言葉なのでしょう。新渡戸精神のもと、復興支援をお手伝いする団体間の「架け橋」になることもこころがけの活動の一つです。ただしあんまり無理して一緒にやると、空回りしたり、つばぜり合いが起こるのが世の常です。緩い結び目にしたのは、お互いを尊重して無理なく末永く一緒に活動を続けていきたいという思いからです。
 最後に、タスキの描くひょうたん型の意味はご賢察の通りです。こころがけは、老若男女の心の健康増進をお手伝いするチームです。まずはサロンにご参加下さい。毎月チラシを配布しています。

 

6年目を迎えた被災地メンタルヘルス支援活動とJAMSNET東京との協働

鈴木 満
認定NPO法人心の架け橋いわて(こころがけ)
 
 東日本大震災から6年が経過しました。大規模惨禍からコミュニティが復興するには長い年月を要します。複合的な喪失体験が個々の人生に開けた空洞はあまりに大きく、一度分断された地縁・血縁・職縁は新しい町並みができてもなかなか元に戻りません。阪神・淡路大震災の場合、震災後20年が経過した現在でもメンタルヘルスの問題を抱えた住民が多数存在すると報告されており、ニューヨークで発生した多発テロ事件の被害者および遺族のメンタルヘルスケアを行っているマウントサイナイ病院では、事件後10年以上が経過しても新たな受診事例があるとのことです。
 JAMSNETでは、2011年の震災直後からニューヨークと東京の両JAMSNETが緊密に連絡を取り合い、被災地への長期的メンタルヘルス支援を日米協力して行うプロジェクトを立ち上げました。支援対象となったのは岩手県大槌町です。町から海を臨むとひょっこりひょうたん島のモデルとなった蓬莱島が見えます。大槌町は、震災前から精神医療資源が寡少であり震災により壊滅的な津波被害を受けました。震災前からのメンタルヘルス需要に加えて、震災に伴う新たな需要が生じたものの、それらに対応できる専門家が全く足りませんでした。今も多くの住民が行方不明であり、若年人口の流出が高齢者率の上昇を助長しています。
 2011年6月から日本精神科救急学会、多文化間精神医学会、JAMSNETの有志と共に着手した週末の被災地訪問は、同年12月にはJAMSNETや米国日本人医師会の助けを得て、ニューヨークのJapan Society からの活動助成(3年間)による長期支援の道筋ができました。毎週末に3−4名のメンタルヘルス専門家が全国から交代で大槌町に参集し、被災者宅へのアウトリーチ、現地拠点での相談対応、支援者支援、啓発教育、他支援団体とのネットワーク作りなどの活動を展開しています。本活動は、精神医療過疎地への遠隔支援モデルでもあります。
 活動の中核は予防的啓発教育です。2012年7月に着手したサロン活動は、年間50回ほど実施してようやく地元に根付いてきました。落語、音楽演奏、高齢者転倒予防運動などの企画と医学講話との組み合わせによる、相談行動の促進、高齢者の居場所作り、世代間交流の場の提供などを目的にしています。2016年からは、JAMSNET東京のメンバーによる音楽療法、芸術療法などを取り入れており、JAMSNETからの活動助成も受けています。
 一方、遠隔地からの「出前型」支援は移動に要する負担が多大であり、今後の長期支援をより効率的かつ経済的に行い地域全体のケア能力を高めるには、被災地の伝統文化や行動規範を熟知した現地在住の人材を育成・支援する「地域自立型」支援との協働が必要です。こころがけでは2014年9月から岩手県内の対人援護職を対象に、メンタルヘルス領域の支援者育成研修を16回開催しました。2015年10月にはその中から12名をインターンとして採用し、現在ではサロンの半数近くをインターンが企画運営しています。今後は遠隔会議システム等のICTを使いこなすことで、岩手県在住の支援者と遠隔支援者の連携協働を推進していきます。こころがけでは、共に被災地長期支援に取り組んで下さるメンタルヘルス専門家を募集しています。ご興味を持たれた方はホームページhttps://kokorogake.org/contact/よりご一報下さい。

 こころがけは、Japan Societyの活動助成によるNPO法人としての助走期間を経て、2014年からは復興庁や岩手県などからの大型助成金を獲得し、2015年3月に岩手県で9番目となる認定NPO法人への昇格を果たすことができました。寄付者が税制優遇措置を受けることができる認定NPO法人になるには厳しい審査があり、日本の全NPO法人のうち認定NPO法人は1%程度にすぎません。皆様の篤志を被災地に届けるためのご寄付をお願いしております。詳しくは同じくホームページhttps://kokorogake.org/donation/をご覧下さい。