こころがけの活動

fig2

2012年6月、日本精神科救急学会と岩手県との協働作業として震災ストレス相談を開始しましたが、精神科医療に対する住民の偏見等もあり相談者数はそんなに多くありませんでした。しかし、社会福祉協議会の訪問員の方々と同行訪問することで、住民のみなさんに寄り添い、声を聞きくことができ、私たちのことも伝えることができるようになると精神科医療に対する住民の偏見等も少しですが、和らいでいったように思います。

その一方で、遠方からの支援者である私たちは、地元の復興状況、風土、文化に触れることで「全生活支援の中にあるメンタルヘルス支援」というアプローチの重要性をさらに感じていくこととなりました。

同行訪問で住民に寄り添い、話を聞くことができたことから、アルコール問題、認知症問題、廃用性筋力低下などの問題があがってきました。それら問題の対策として、同年7月から「サロン+医療講話」を開始しました。そのサロンの内容は落語、バイオリン演奏、運動(ふまねっと)といった行事を仮設住宅の集会所などで開催し、問題を扱った医療講話を組み合わせました。

活動の目的

震災前から精神医療資源の乏しかった岩手県沿岸地域では、震災による喪失体験や地縁・血縁・職縁の分断に由来する新たなメンタルヘルスの需要が生まれています。私たちは精神科医師、精神科専門看護師、臨床心理士、精神保健福祉士などメンタルヘルス領域の多職種のメンバーでチームを組織し、2011年11月から現在に至るまで、毎週金、土曜日に大槌町でのさまざまな支援活動を行っています。

1.「医療過疎地」を襲った大震災

大槌町では、津波により平地にあった町の行政、産業、住居の大半が壊滅的被害を受け、被災時の推計人口15,239人のうち約10分の1の方々が死亡・行方不明となりました。「広域医療過疎地」と呼ばれる岩手県のなかでも医療資源が乏しい地域で、精神科医療の専門施設はなく、専門家に相談することに対するスティグマ(負の烙印)もありました。現在では、4年間にわたる継続的な活動により信頼関係が生まれ、精神科医療に対する偏見が軽減されてきた一方、新たなメンタルヘルスの課題も発生しつつあります。震災ストレス由来のメンタルヘルス不調者への対応は、震災から時間が経つにつれ需要が高まってきています。

2.3つの「縁の分断」

東日本大震災から時間が経つにつれ、被災地では生活環境の変化と高齢化が急速に進み、今後の地域社会のあり方がこれまで以上に問われています。
東日本大震災は個人のみならずコミュニティに甚大な喪失をもたらしました。それは地縁、血縁、職縁といった「縁」の分断です。縁は、目に見えず、世代間で継承され、文化風土に深く関わるもので、小さな規模のコミュニティではこれらの縁がそれぞれ重なりあっています。今回の震災がもたらしたものは、そういった「縁」の横断的かつ縦断的な分断でした。
震災後4年が経過した今、それらの「縁」のカタチは変容してきています。復興事業に伴う故郷の原風景が失われつつあり、「縁」の『再分断』、すなわち復興住宅への移動によるリロケーションストレス、高齢化とさらなる孤独化などが危惧されています。

fig3

3.架け橋になること

私たち「心の架け橋いわて」に使われている「架け橋」という言葉は、「太平洋の架け橋」になろうとした新渡戸稲造の精神に由来しています。災害復興には連携と協働を重んじる「架け橋」を担う役割が必須です。私たちはメンタルヘルス専門家を中心としたプロボノ集団(※)ですが、活動開始当初から「全生活支援」を前提としたメンタルヘルス支援を目指し、専門性の異なる支援団体との連携を積極的に行ってきました。行政機関や地域医療機関、教育機関、医学会、国内外のNPO法人、民間企業など、多くの支援団体と連携することで、分断・変容した地縁、血縁、職縁の再生をサポートするべく活動しています。

(※)社会人が自らの専門知識や技能を生かして参加する社会貢献活動。
ラテン語の「Pro bono publico(公益のために)」からきている。